この世界の片隅に~白木リン(座敷わらし)と北条周作・すずとの関係
「この世界の片隅に」に登場する謎めいた遊女・白木リン。
彼女の登場で物語はグッと深みを増していきます。
・幼少期のヒロイン・浦野すずとの出会い
・遊女時代の北条周作との関係
・白木リンの最期
主にこの3つのエピソードから、白木リンが果たした役割についてご説明します。
屋根裏の座敷わらしの正体(白木リン初登場)
浦野要一(鬼いちゃん)・浦野すみ(妹)とともに、祖母の家にスイカを持っていくシーン。
ウッカリこけてしまって、全身泥まみれになるユニークな姿が印象的でしたね。
スイカを届けて食べた後、浦野3兄妹は親せき宅で昼寝をすることになります。
ここで、屋根裏の天井板が外れてするすると降りて来た、謎の少女がいたことを覚えていますか?
この少女こそが白木リンの幼き日の姿でした。
白木リンはどうして屋根裏に(悲惨な幼少期)?
浮浪児然とした姿で、隠れ潜むように生活していたのは、貧困家庭で生まれ育ったため。
白木リンは、かなり悲惨な生い立ちの持ち主だったのです。
金持ち宅の使用人時代は、さんざんこき使われて、そこの子供にもいじめられて。
耐えきれず、飛び出したものの当てもなくさまよい、浦野すずの祖母宅に隠れ潜むようになりました。
家族や親せきに包まれて幸せいっぱいに生まれ育った、浦野すずとの格差が理解できますね。
日頃から「自分は映画だろうが何だろうが泣くことはない」を公言しているのですが、本日『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』マスコミ試写で観てクソミソに泣いてしまったことを告白します。白木リンさん…(思い出し泣き) pic.twitter.com/hSYPkTkVNn
— 田辺ユウキ|映画評論家・音楽ほかライター (@tanabe_yuuki) 2019年11月20日
浦野すずと白木リンの関係(初対面でも2つの贈り物)
浦野すずと白木リンは、「この世界の片隅に」における2大ヒロインです。
子供時代に、親せき宅で二人は顔を直接合わせていました。
昼寝をしていたときに、屋根裏から降りて来た不思議な女の子。
天井裏に隠れ潜むように生活していた白木リンは、この時点では正体不明。
そんな彼女のために、浦野すずは2つもプレゼントを残していきました。
・スイカ(赤い実の部分たっぷり)を持ってきてあげた
・自分のためにつくられた浴衣を置いていった
初対面で、名前も知らない謎の少女に対して、親切過ぎると感じた方もいるのでは?
白木リンの生い立ちについて、一切知らなかった浦野すずが見せた優しさ。
まさに物語のヒロインとして、ふさわしい行動と言えますね。
浦野家の親切心(浦野すずと祖母のやさしさ)が白木リンの希望に
この時の不思議な出会いの記憶は、二人からは失われたものの、のちに再会を果たすことになります。
それが、友好的なものになったのは、浦野すずの親切心が最初に合ったからこそ。
また、祖母が気付かないふりをして食事を与えていたこと。
この2つの親切心が、幼き日の白木リンの命を、つなぎ止めたことは間違いありません。
そんな薄幸の少女・白木リンにとってわずかながらでも、浦野家の優しさは生きる上での希望になったのです。
北条周作と白木リンの関係(二葉館の遊女時代)
やがて時は流れ、白木リンは遊郭・二葉館で遊女として生活するようになります。
白木リンが遊郭に行ったキッカケ(ウエハーのアイス)
きっかけは呉市で大人の女性(スカウト)に声を掛けられ、喫茶店でウエハーの乗ったアイスクリームをご馳走に。
美味しいモノで釣られてしまったとはいえ、甘いものに目が無かったのでしょう。
食べる赤い実が無くなったスイカの皮の白い部分を、一心不乱に啜っていた座敷わらし時代から好みが変わっていない証拠でしょうか。
まだまだ少女で世間知らずだった白木リンは、遊郭に入って雑用として働くことになりました。
読み書きがまともにできない
行く当てもない
だけど容姿はバツグンに良い
まさに、遊女としてスカウトの目に留まるには、ふさわしい人物だったのです。
北条周作は白木リンの得意客(愛情を示す2つのアイテム)?
北条周作が遊女となった白木リンへ愛情を募らせていた事実。
それが具体的なアイテムとして、作中に2つ登場していました。
・竜胆(リンドウ)の茶碗(花言葉は「あなたの悲しみに寄り添う」)
・切り取られたノートの切れ端(名札代わりに周作が代筆)
夫と顔見知りが実は深い男女の仲だったんです!!
それを雄弁に物語る2つのアイテムが、北条すずの眼前に突き付けられてしまいました。
北条周作の本命は白木リン(すずは2番手の代用品)
恐らく何度も通い詰めて、恋仲に落ちてしまうほど。
周作のリンへの愛情の深さが募っていった、情景が伝わってくるようですね。
これが周作の妻となった北条すずを、後々にまで苦しめたのは言うまでもありません。
偶然ではあるものの、白木リンとの再会は北条すずにとって、胸に突き刺さる結果となってしまいました。
白木リンとの秘められた恋(周作の異常な行動の理由)
ここで、夫の周作のおかしな行動について、注目してみたいと思います。
北條周作と結婚した、すずが、小学校時代の幼馴染の水原哲と再会するエピソードを覚えているでしょうか?
重巡洋艦「青葉」の停泊時に、北條家にふらっと立ち寄った水原哲と深夜の密会。
なぜ、このシーンで周作が母屋の扉にカギを掛けたのか?
もう二と度会えないかもしれないから、二人っきりでゆっくり話をさせてあげたかった?
だとしてもカギまで掛けて母屋から締め出すのは異常ですよね?
すずへの後ろめたさを解消したかった
↓
だから、幼馴染の水原哲との一晩を提供した
↓
自分の本命が白木リンであることの罪悪感を解消したかった
結果として、すずは貞淑さを失わないまま哲と別れることに。
周作の思惑通りに事は運ばなかったのは、水原哲への思いよりも夫への怒りが勝ったのかもしれませんね。
色々やりつつ、今度は何度目かの「この世界の片隅に」を垂れ流す。
「北條周作とすず」「水原とすず」この二組の関係性が非常に感情を揺さぶられて良い。
「古い付き合いの、何もなかった男女」と「付き合いの浅い(つっても数年はある)夫婦としての男女」 pic.twitter.com/sIX2hO597o— 新一 (@Shini_chi) 2017年12月24日
北条すずと白木リンの関係(穏やかな三角関係)
夫と遊女が相思相愛。
そんなことはつゆ知らぬ北条すずは、闇市での砂糖の買い物途中、迷い込んだ遊郭の敷地内で運命の再会を果たすことに。
二人とも、スッカリ大人の女性に成長していたのですが、お互いに初対面の時の記憶は失われていました。
2度目の出会いは衝撃的(人妻すずとの運命の再会)!
すずは得意の絵を地面に描いて、コミュニケーションを取ったことで、無事に北条家へ帰宅。
広島市から呉市へと嫁いできたものの、友達がいなかった彼女にとって、白木リンの存在は貴重なものだったのでしょう。
この時に、すずが夫の名前を白木リンに伝えていたことを覚えているでしょうか?
自己紹介をしたすずは、自分を「北条周作の妻だ」と名乗っていたんです。
これを聞いて白木リンが、周作の姿を思い出さないハズがありません。
実際、落ち着いた柔らかい表情を浮かべていたものの、内心はドキドキしていたのではないでしょうか?
白木リンの残したもの(北条すずへの贈り物)
迷子になったすずとの会話に登場したウエハーのアイス。
周作が与えた竜胆(リンドウ)の茶碗とノートの切れ端。
遊女仲間のテルの遺品の艶紅。
それぞれが、メインヒロイン・すずへの贈り物になっているんです。
白木リンの隠された気持ち(悲恋と友情)
結局、白木リンは北条周作と恋仲になりましたが、結ばれることはありませんでした。
読み書きも満足にできない遊郭の女。
お見合い結婚が主流だった時代を考慮すると、周囲の猛反発が想像できると思います。
この悲恋は、周作とリンの胸中だけで終わることに。
それが理解できるセリフが作中にありました。
人は死んだら記憶も消えてなくなる
(死ぬまで何があったのかも)秘密になる
自分専用のお茶碗と同じく贅沢(残せるものがある人は幸せ者)
これらは、自分の気持ちを、すずに暗に伝えようとしているんですね。
周作との結婚を諦めたのは?(白木リンの本心)
北条すずへの友情を失わないため、本心は隠していること
これは劇中で直接描写されるシーンが存在していないため、うっかり見過ごしてしまうかもしれませんね。
これは、周作の妻となったすずへの友情を、大切にした証拠と言えるのではないでしょうか?
劇中では泥沼の愛憎劇が繰り広げられる展開こそ無かったものの、枕を涙で濡らす夜を過ごすリンの姿が確かにあったハズなのです。
自分の運命について、リンはすずとの格差を痛感したものの、穏やかに北条家の幸せを願う姿勢を崩さなかったこと。
これこそが、白木リンの「この世界の片隅に」における重要な役割なのです。
右手を失い、はるみを失い、浦野家の家族を失った北条すずが、失わなかった北条周作という夫とその家族の命。
ここには、白木リンの願いが込められているように感じてなりません。
白木リンの最期(生死不明)
終盤では、呉市への度重なる空襲シーンが激増していきます。
物語は、序盤から中盤に掛けて展開されてきた、穏やかな日常生活が脅かされていく展開に。
二葉館の遊女だった白木リンも、ヒロインのすずとの友情を育んだものの、最期は生死不明。
ハッキリとした死亡シーンが描写されないため、どうなったのか気になる方もいるのではないでしょうか?
遊郭も焼け落ちてしまい、行方が分からなくなったため、死亡説がささやかれているようです。
それでも、いつの日か周作やすずたちとの再会を、期待してやまない方もいることでしょう。
もう一人のヒロインは物語からは退場したものの、観客たちの心の中に存在し続ける。
彼女の死は、その存在が忘れられたときにこそ、確定されるのだと思います。
白木リンをもっと知りたい人にオススメ(2つの映画作品の違い)
この世界の片隅には、原作の漫画・テレビドラマ・映画など複数のメディアが存在します。
白木リンを深く知るには、2019年12月20日より公開された映画「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」をご覧ください。
2016年版と2019年版の違い(上映時間40分・250カット追加)
実は、2016年版映画「この世界の片隅に」では、原作のエピソードを削って作られていたのです。
約3年と1カ月掛けて作り直された2019年版では、上映時間40分・カット数250も追加。
追加されたエピソードでも、特に目を引いたのが白木リンのものでした。
きっと、涙をのんだファンも少なくなかったことでしょう。
2019年版では、彼女の登場シーンも大幅に追加されて、ノートの切れ端の謎も解明されました。
この世界の片隅に~白木リン(座敷わらし)まとめ
幼き日に、親せき宅で屋根裏から登場した座敷わらし。
それが白木リンの正体でした。
父親に売り飛ばされた挙句、こき使われてイジメられた使用人時代を経て遊女になった、もう一人のヒロイン。
それとは対照的に、家族に包まれて結婚し、夫の家庭に入ったヒロイン浦野すず。
この物語の構成は、単なる戦争映画というくくりでは物語れないリアリティを、観客たちの胸に串刺しにするのです。
自分が幸せになれなくても、他人の幸せを願うことが出来るのか?
「この世界の片隅に」における命題の一つとして、視聴後に考えるキッカケを与えてくれたように思えました。
助け合って譲り合って生きていくことの大切さ、難しさ。
作品を通じて伝えたかった作り手の意図。
自分の身近な問題に置き換えて考えてみるのもオススメです。
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